脳障害
ご存知の方も多いだろうが、脳髄は脂肪の塊である。その柔らかさは、洋菓子の
ブラマンジェに例えられる。
連続殺人者に、事故や虐待等で脳に損傷を負った人々が多いというのは余りにも有名な話だ。
だがもちろん頭を打ったすべての人々が殺人を犯すわけではない。また、過去に虐待を受けた
ほとんどの人は、今犯罪とは関係なくまっとうに生活しているはずだ。
では一体、「境目」は何処にあるのだろうか?
彼は6歳のとき、市街電車にはねられてコメカミに穴があき、6日間も意識不明だった。
おまけに母親は彼を生んだ直後に、夫から伝染された性病(おそらく梅毒)がもとで死んでいるので、彼が胎内感染した疑いは濃厚。脳に影響があったことは想像に難くない。
彼はこの事故以来激しい頭痛とめまいをしばしば覚え、のちには立っていられないほどになったという。また覗き癖、奇行、幼児に対する猥褻行為などが見られるようになった。
知能は低かったようだ。
詳しくは「レディ・キラーズ」参照
彼はこの世に生まれ落ちる際、母親の出産困難により、数分ほど脳に酸素が行き渡らない状態だった。つまりほとんど死産と言ってもいい状態で生まれたのだ。
また1歳のときプールで溺れ、水面にうつぶせになって浮かんでいるのを発見された。
更に5歳のとき、家族旅行中の車内で突然意識不明になり、蘇生したのは6時間後だった。
知能は正常。ちなみに富豪で、プール付きの家に、キャデラックにポルシェを所有していた。容貌もけっして醜くはなく、他人から見ておよそ性犯罪者になるようなタイプではなかった。
詳しくは「レディ・キラーズ」参照
彼は6歳のとき、釘抜きで頭を強打し、失神した。木から落ちて1時間半も意識不明だったこともある(そのときは泡を吹いてひきつけを起こしていたらしい)。
また15歳のときには、日除けの鉄柱に激突し、鉄柱の先端が頭蓋骨にめり込んだ。
父親と言い争いになり、激昂して自分の頭を何度もハンマーで殴りつけたこともあったという。
親を殴ればいいのに、とは思うがそれができる程度ならそもそも抑圧とは呼べまい。さらにはバーで喧嘩をし、頭部を負傷した。
知能は低かったようだ。コリン・ウィルソンによると穏やかな性格らしいが、ロバート・レスラーの言によれば態度が悪くて凶暴らしい。知能に関しては染色体異常も関係しているかもしれない。彼は男性遺伝子であるY染色体が平常人より一本多い「XYY症候群患者」だったという説があり、これが攻撃性を誘発したのではないか、とも言われている。なお染色体異常は、知恵遅れになりやすい傾向にもある。
容貌についても、「とてつもなく醜い」と書いてある本もあれば、「ハンサム」と書いてある本もあってばらばらだが、写真を見た限りでは標準と言える。
詳しくは「狂気の暴発」参照
小学生のとき、ジャングルジムから落ちて後頭部を強打し、以来、痙攣発作に見舞われるようになった。それから2、3年後、彼はふたつの頭を持った胸像を粘土でつくった。ひとつは柔和な人間の顔、もうひとつは猛り狂った獣の顔であった。
転落事故以後、彼はしょっちゅう失禁するようになった。すさまじい癇癪持ちだった養母は、彼の尻を洗ってやる前にまずお仕置きをした。それはガスレンジの火の上に掌をかざさせて火あぶりにするというもので、そうしながら彼女は「これはあなたのことを思ってのことなのよ」と言い、泣き喚くビアンキに「母さんを愛してる」と唱えることを強要したという。
詳しくは「殺人家族」参照
幼い頃、木登りをしていて誤まって落ち、頭蓋の上部が陥没・変形。横にひしゃげたような形になり、悪童たちに「フットボール頭」とからかわれ、いじめられる元となった。
父親に日常的に肉体的・精神的虐待を受けていたらしく、頭部への打撃はそれ以後も受けていたと思われる。
詳しくは「MONSTERS」参照
両親から近親相姦、獣姦の手ほどきを受けるなど、性的・道徳的に混乱した家庭で育ち、なんらそれに疑いを持たないまま成長した。
16歳のときオートバイで事故を起こし、7日もの間、昏睡状態となった。回復後、気むずかしく短気になり、性欲が以前にも増して亢進した。女とみれば手あたり次第に口説き、実の妹まで妊娠させている。
19歳で、口説こうとした女にひっぱたかれ、崖下に転落。このときは丸1日昏睡し、目覚めたときにはさらに怒りっぽく、無口になっていたという。
彼の妻は、胎児の時期を、母親が精神病で脳に電気ショック療法をほどこされている間に過ごした。生まれおちた彼女はいささか知能が低く、読み書きがやっとできる程度であった。幼い頃から父親の性的な愛人となり、夫のフレデリックと出会ってからはさらにセックスに依存した生活を送る。
夫婦ともに、田舎の農夫とその妻といった容貌だが、その内実は性の怪物であった。
詳しくは「MONSTERS」参照
31歳の冬、船のハッチで頭を強打し、頭蓋骨が陥没するほどの重傷を負った。脳が一部かなり損傷したため、2ヶ月半もの入院を余儀なくされ、退院後は「性欲、物欲、金欲」のすべてのタガがはずれたような男になった。
恋人のマーサはホルモン異常で120キロもの巨体だったが性欲が強く、彼らは「とても表現できないような、変態的なセックス」に毎晩ふけったという。
父親に嫌われており愛情うすい家庭に育ったことから、女性に受け入れられることを特に望んだようだ。
詳しくは「HONEYMOON KILLERS」参照
酔った水夫にビリヤードのキューで頭をぶん殴られて以来、精神に異常をきたし犯行に及んだらしい。
5歳のとき、ブランコから落ちて気絶。意識を取り戻してみると、左瞼の真中に棒きれが深く刺さって食いこんでいた。
1年後、自転車で転んで頭部負傷。さらに1年後、車にはねられて歯が数本折れるほど強く地面に叩きつけられ、脳震盪を起こす。
またその翌年、子馬の背から振り落とされ、頭部負傷。このときは数週間にもわたってめまいと吐き気が続いたという。
決定的だったのは結婚直後のオートバイ事故で、頭蓋骨を骨折し重体に陥った。回復後も、しばらくは片目の瞳孔が開きっぱなしだったらしく、また顔の左側の感覚がまったくなくなり、足も引きずるようになった。
この事故以来ひどく怒りっぽくなり、性欲が異常に亢進したと言われている。
知能は放射線技師を職業としていたので、正常だったと思われる。
小学生の頃、球技場で頭部負傷。昏睡に陥るほどのひどい怪我だったらしい。
また崩壊家庭に育ち、幼少時から慢性の栄養失調だったため、脳組織の発達がさまたげられたと考えられる。
だが知能はかなり高く、天才域の数値だったらしい、推定IQ140以上。
崩壊家庭に育った殺人者は数あれど、ルーカスを越えるケースはなかなかない。……のでここでは脳損傷に関する話だけにさせていただく。虐待に関しては別項で。
売春婦だった彼の母親は、日常的に彼に暴力をふるっていた。
ほうきの柄や棒きれなど、何でも手当たり次第掴んで殴りつけたらしい。靴ヒモを結ぶのが遅い、という理由で、2×4の角材で後頭部を思い切り殴りつけられたこともあったという。その打撃で3日ほど彼は意識不明の重体に陥り、怖くなった母親の愛人が病院に運んだ。母親は梯子から落ちたと医師に説明したらしい。
有罪判決がおりたのち、彼はCTスキャンとMRI検査を受けたが、脳の損傷範囲はあまりにも広大だったようだ。
そして勿論、カールトン・ゲーリーと同様、慢性の栄養失調であった。また、長じてからのアルコールとドラッグの乱用、さらにカドミウム中毒が脳損傷に拍車をかけたと考えられている。
知能は厳密な意味で言えば高いとは言えないだろうが、驚くほどカンが良く、相手がなにを言ってほしいかを察知する能力が肥大しているようで、供述調書をとった担当捜査官はかなり振り回されたようだ。
詳しくは「MONSTERS」参照
母親の妊娠中、胎内で何らかのトラブルがあったとみられる、先天性の脳障害。当時のロシア全土を覆っていた重篤な飢饉も関係していたかもしれない。
脳波に異常があり、水頭症の兆候が見られ、左右の瞳孔の大きさも違っていた。また12歳になるまで排尿のコントロールができなかった。
ホルモン異常による乳房の発達もあったという。(ちなみにボビー・ジョー・ロングも同じような遺伝性の異常を抱えており、十代はじめのとき、手術で胸から6ポンドほどの組織を除去した。1ポンド=453グラムで計算して下さい)
知能は正常値だが物覚えが悪かった。職業は教師。
詳しくは「チルドレン・キラーズ」参照
<「殺人カルト教祖様」の元祖。彼を崇拝する「マンソン・ファミリー」のメンバーと共に、映画監督ロマン・ポランスキー宅へ押し入り、その妻であり映画女優でもあった、シャロン・テート(当時妊娠8ヶ月)とゲスト数人を刃物で惨殺した。ファミリーが現場に書きなぐった「ヘルター・スケルター(無秩序)」は彼の代名詞ともなっている。>
マンソンもまた、典型的な崩壊家庭の落とし子である。父親の顔を知らぬ私生児として生まれ、親の自覚のない母親に親戚間をたらいまわしにされて育ったが、ある日施設に置き去りにされる。
彼はしばらくして施設を飛び出し、生きるために窃盗を働いた。14歳で少年院へ送られたマンソンはそこで看守の虐待に会う。性的暴行と肉体的暴行の両方である。1年も経たないうち、毎日の殴打による頭部損傷の影響が、体のチックや顔面麻痺となって現われはじめた。
さらに出所したのちの、60年代のヒッピー・ブームによって常用したLSDが脳の中枢神経に打撃を与えた。彼はまた精神病の兆候も示していたが、そのすべてが、側頭葉に損傷のある人間特有の症状だったという。
知能はかなり高かったようだ。カリスマ性があり、音楽的才能もあった。
彼の人生はこの夏の日を他としては、まったくの正常なものだった。
性格は穏やかで快活。冗談がうまく、子供好きで、誰にでも愛想が良かった。
周囲の人々は口を揃えて、彼の普段の好青年ぶりを語った。
彼は塔の上で警官によって射殺されたが、死体を解剖してみると、脳内にクルミ大の腫瘍が発見された。
この腫瘍が脳を圧迫し、ひどい頭痛と憤怒の発作を彼にもたらした、と一般にはされている。(コリン・ウィルソンは「腫瘍が脳の攻撃中枢である扁桃体を刺激した」と書いているが、検死を担当した博士は、解剖結果発表の場で「彼は腫瘍がなくとも同じことをやったはず」と述べてもいる。)
知能は勿論まっさらの正常。見るからに温和そうな容貌をしていた。
余談なのだが、ホイットマンは元海兵隊員だった。この事件後、アメリカ海兵隊の入隊式で、とある教官がこういう演説をしたらしい。
「チャールズ・ホイットマンは地上70メートルの距離から、柱と柱の間に隠れている巡査の頭をぶち抜いた。彼にそれほどの銃の腕を仕込んだのは誰だ? 我がアメリカ海兵隊だ!」
いかにもアメリカ的マッチョイズムあふれる話で、彼がいまだに“人気がある”所以もやはりこのあたりにあるのだろう。
不謹慎を承知で言うが個人的には好きなエピソードである。